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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)2065号 判決 1963年4月25日

原告 植田徳三

右訴訟代理人弁護士 金網正己

被告 町田アキ

外九名

右被告一〇名訴訟代理人弁護士 村中清市

主文

原告に対し、被告町田アキは、別紙目録記載の土地の一二分の四の持分につき、被告町田吉三郎、同小出玉江、同町田善之助、同町田茂夫、同町田正一郎、同真島美喜枝、同小山しげ子及び同荒井健は右土地の各一二分の一の持分につき、いずれも昭和二五年九月一〇日交換による所有権移転登記手続をせよ。

原告の被告川口光三に対する請求を棄却する。

訴訟費用中、原告と被告川口光三間に生じた分は原告の負担とし、その余は被告川口光三を除く被告らの負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、原告と被告川口を除くその余の被告らの先代町田冏との間に昭和二五年九月一〇日、同人が同人所有の本件土地の所有権を原告に譲渡し、原告が作次郎所有地の賃借権を町田冏に譲渡し同人は同年一一月末日までに原告に対し本件土地の所有権移転登記を経由する約束で交換契約が成立したこと、町田冏が昭和三三年一二月一〇日死亡し、被告川口を除くその余の被告らが原告主張の持分を相続したことは、当事者間に争いない。

二、被告らは、右交換契約は解除により消滅したと主張する。

前認定の事実に成立に争いない甲第一号証≪中略≫を総合すれば、原告は、昭和二二年九月一日町田冏から同人所有の東京都墨田区吾嬬町西六丁目五四番地の土地のうち九八坪七合を賃料一坪当り八〇銭の約で賃借し、次いで昭和二三年一一月一〇日梅田保から右五四番地の土地のうち三〇坪について存する同人の賃借権の譲渡を受け、譲受について町田冏の承諾を受けたので、原告は、本件土地を含む同番地の土地につき賃借権を有するに至つたこと、一方小宮作次郎は、作次郎所有地を含む同都同区同町西六丁目六九番地宅地一三八坪を土井尚森に賃貸していたが、同人は、昭和二二年一二月二三日原告に対し、右一三八坪に対する賃借権と地上の建物一棟を代金一一万円で譲渡したこと、その頃町田冏は、千葉県下に居住していたが、昭和二五年九月頃東京都に転居しようとしたが、居住の場所がなかつたこと、そこで原告に対し、同人の所有地であるが、原告の賃借している本件土地の所有権を原告に譲渡し、その代りに原告の作次郎所有地三〇坪に対する賃借権を譲渡してもらいたいと申込んだこと、原告もこれを承諾して、前記のとおり昭和二五年九月一〇日原告の賃借権と町田冏の所有権を交換する旨の交換契約が成立したこと、同日町田冏は、原告から作次郎所有地の引渡をうけ、この地上に建物を建築し、同年一〇月頃からこれに居住し、昭和三三年一二月一〇日死亡後は、被告町田アキらが同所に居住していたこと、しかし、作次郎所有地に対する賃借権が土井尚森から原告に、原告から町田冏に譲渡されたことについては、いずれも賃貸人である小宮作次郎の承諾を得ていなかつたこと、そのため同人の妻から土地の整理の委任をうけた篠崎茂夫は、昭和三五年四月頃被告町田吉三郎及び被告町田アキに対し、同被告らの作次郎所有地の占有は不法占有であるとし、その明渡しか、または賃借権の設定を希望するなら、その対価として、金五〇万円の支払を要求したこと、そこで、同被告らは、原告に対して解決方を要求したが、らちがあかず、結局同被告らは、篠崎茂夫に金五〇万円を支払つて貸主を小宮作次郎、借主を同被告両名とする作次郎所有地の賃貸借契約を締結したことが認められる。

およそ交換契約においては、相互に移転される財産権の価値は、さほど格差のないものであることが通例であるから、前記のような面積の広い土地の所有権と面積の狭い土地の賃借権との交換においては、交換の目的となる賃借権は、賃貸人に対抗できる賃借権であり、賃借権の譲渡人は、譲受人に対し、賃借権譲渡について賃貸人の承諾をうける義務を負担しているものと解するのが相当である。そして前記交換契約においては、町田冏から原告に対する本件土地の所有権移転登記の履行期が昭和二五年九月末日と定められたのであるから、特別の事情のない限り原告が同人に対する賃借地の引渡及び賃貸人小宮作次郎からの賃借権譲渡の承諾を得る債務の履行期も、同日と約束されたものと推認される。原告は、同日までに賃借権譲渡の承諾を得られなかつたのであるから、町田冏または同人死亡後はその相続人である被告ら(被告川口を除く。)は、原告に対し同人らの債務である本件土地の所有権移転登記を提供して、相当の期間を定めて、原告の賃貸人から賃借権譲渡の承諾を得る債務の履行を催告し、原告がその期間を徒過するときは、履行遅滞を理由に本件交換契約を解除できる筋合である。被告ら主張の履行不能による解除というのも、その実質において前記のような履行遅滞を指すものであろう。けだし、賃貸人である小宮作次郎が賃貸地を譲渡し、賃貸人の地位を離脱する等の事実がなければ、同人の承諾をうる債務が履行不能になるということはないからである。さて、前述したところによれば、被告らの先代町田冏は、昭和二五年九月末日の履行期から相当の催告期間を経過した後に解除権を取得し、これを行使できた筈であるから、解除権の消滅時効期間の起算点は、相当の催告期間の満了の時と解する余地もないではない。しかしそすると相当の催告期間を画一的に幾日間と想定しなければ、消滅時効の起算点したがつてまた満了点が決定しないことになる。このことと履行期の経過と同時に停止条件付契約解除の意思表示を有効になしうること等を考慮するときは、定期行為でない一般の契約における履行遅滞による解除権の消滅時効期間の起算点も該債務の履行期と解すべきである。したがつて、被告ら主張の解除権は、昭和三五年九月末日をもつて消滅時効により消滅したから、それより後れてなされた解除の意思表示は無効である。

交換契約は、有効に存在するから、町田冏は、原告に対し、本件土地の昭和二五年九月一〇日交換による所有権移転登記義務を負担し、同人の死亡により被告ら(被告川口を除く。)は移転登記義務を不可分的に承継したものである。しかし、同被告らが相続を原因として原告主張のとおり各持分につき移転登記を経由していることは、当事者間に争いないから、右各持分につき原告に対し、移転登記手続をする義務を負う。

三、原告は、交換契約により本件土地の所有権を取得したわけである。被告川口が昭和三五年一二月三〇日被告町田吉三郎から本件土地の持分一二分の一を買受け、昭和三六年三月三日その旨の移転登記を経たことは、当事者間に争いない。

原告は、右売買は虚偽表示であると主張する。しかし、原告本人尋問の結果によつても、右主張事実を認めるにたりず、その他これを肯認できる証拠はない。かえつて、被告川口光三及び同町田吉三郎各本人尋問の結果によれば、被告川口は、本件土地上にある原告の建物を競落によつて取得したので、その敷地をも確保するため、その余の被告らに申出て、被告川口からはその持分を代金一六万円で買受け、その余の被告からは本件土地使用の承諾を得たことが認められるのであるから、原告の右主張は失当である。そうしてみれば、被告町田吉三郎の持分権につき二重譲渡が行われたと同一の結果となり、被告川口が先に所有権移転登記を経たから、原告は、その限度において本件土地の持分権を喪失したわけである。

五、よつて被告川口に対する請求を棄却し、その余の被告らに対する請求を認容し、訴訟費用につき民訴法第八九条、第九二条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岩村弘雄)

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